【専門家解説】オートロック共通解錠システムは本当に安全なのか?
――置き配時代の便利さと、防犯の境界線をどう守るか
2025年6月、国土交通省が言及した「オートロック共通解錠システム」が大きな話題を呼んでいます。
置き配が日常に根付いた今、配達員がオートロックを解錠して建物内に入れる仕組みは“時代の流れ”として自然なものです。一方で、「本当に安全なのか」「不審者が侵入するリスクは?」といった不安の声も多く、世間の関心は高まっています。
本記事では、元警視庁警察官であり、防犯・リスクマネジメントの専門家として不動産管理会社・自治体・企業を支援している株式会社ファインド代表・林田海志が、この新システムの安全性を多角的に解説します。
■ 配達員がオートロックを解錠できる仕組みをどう考えるか
まず、置き配が常態化した現代において、配達員がオートロック内に立ち入る必要が生じるのは自然な流れです。住民にとっても、配達員にとっても合理的であり、利便性の向上に直結します。
しかし、ここで重要なのは “入れるかどうか” ではなく、
「どのような管理体制のもとで入れるのか」 という点です。
現在、宅配業界では大手企業から個人事業主へと再委託する構造が進んでおり、ユニフォームが業者ごとに統一されているわけでもなく、身分確認が徹底されているとは言い難い状況があります。
したがって、「配達員=安全」という前提は成り立ちません。どの業界にも、一定数の悪意ある者は存在します。
この現実を踏まえると、防犯上求められるのは、
「悪用しようと思っても、発覚しやすく、割に合わない仕組み」 をつくることです。
特に必要なのは次の3点です。
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入退出ログ(顔写真・時刻・滞在時間)の記録による追跡性の確保
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ユニフォームや識別タグなど、見た目で権限を明確化する仕組み
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悪用時の罰則強化による抑止力の付与
オートロックは“絶対的な安全を保証する装置”ではなく、
**「不審に気づくための境界線」**です。
利便性と安全性を二者択一にするのではなく、境界線の“扱い方”を整えることこそが、防犯の本質であると考えています。
■「共通」解錠システムは必要なのか? ― 私は「条件付きで賛成」
すでに大手配送業者が独自の解錠システムを導入している中、改めて“共通解錠システム”を作る必要があるのか。
この問いに対し、私は条件付きで賛成という立場を取っています。
理由は大きく2つあります。
① 住民・管理側の判断が複雑化しやすい
現在、オンライン通販では住民が配送業者を選ぶことはほぼできません。
また管理会社側も、配送業者ごとに使うシステムやルールが異なると、
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「この人は正規の配達員なのか?」
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「このタイミングで解錠されるのは正しいのか?」
といった判断が複雑化し、ミスや迷いを生むことになります。
共通化によって、「正しい行動」と「不審な行動」の境界線を一本化できることは、防犯上非常に大きなメリットです。
② 境界線をシンプルにするほど防犯効果は高い
防犯の理論では、境界線(正常と異常を区別するライン)が複雑なほど、不審者を見抜く難易度は上がります。
システムが統一されていれば、
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許可された動き
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許可されていない動き
の区別が明確になり、不審者の発見につながります。
ただし、共通化は“一点突破リスク”も伴います。
ひとつのシステムが破られれば、広範囲に影響が及ぶ可能性があります。
そのため、以下は必ず前提条件として用意されるべきです。
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入退館ログ(顔・時刻・滞在時間)の完全保存
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再委託者を含む身元確認・教育の標準化
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解錠権限のリアルタイム停止体制
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悪用時の罰則や通報手順の明文化
共通化の目的は“便利にすること”ではありません。
「便利にしても安全性が損なわれない状態」を先に作ること。
この順番を守るなら、共通解錠システムは充分に効果的な仕組みとなり得ます。
■ 想定される防犯リスク ― 本当に気をつけるべきポイントは何か
この仕組みの導入において真っ先に懸念されるのは、不正アクセスやデータ漏洩、侵入リスクなどですが、最も注意すべきはむしろ、
**「住民の警戒心が薄れること」**です。
「配達員なら入ってくるのが普通」という認識が広がると、不審者にとっては“一番簡単な偽装”が可能になります。
不審者は怪しい表情や動作をしません。普通の人の顔をして行動します。
だからこそ、防犯においては境界線の明確さを保つことが最も重要です。
また、「オートロックがあるのに事件が起きた」という声を耳にしますが、そもそも凶悪犯罪はオートロックの有無では防げません。
日本は世界的に見ても凶悪犯罪が極めて少ない国です。
しかし裏を返せば、稀に発生する特異な犯罪への対処習慣が弱いという課題があります。
防犯とは、恐怖を煽ることではなく、
**侵害される確率を下げる“日常的な習慣づくり”**です。
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周囲をよく観ること
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違和感を無視しないこと
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いざという時に駆け込める場所を知っておくこと
こうした“小さな積み重ね”が、犯罪にも事故にも巻き込まれにくい生活をつくります。
オートロックが提供するのは“絶対の安心”ではなく、
**「不審に気づくための境界線」**です。
その境界線をどう扱うかで、建物の安全性は大きく変わります。
■ 専門家プロフィール
林田 海志(はやしだ かいし)
株式会社ファインド 代表取締役/元警視庁警察官。
新宿・池袋・上野など大都市圏での警ら・職務質問業務に従事。
機動隊のほか、国会・官邸・大使館などの重要施設の警備、雑踏警備を担当。
現在は、防犯相談サービス「OMAMORI」、防犯カメラ運用支援「MIERU」を展開し、不動産管理会社・自治体・企業に対して防犯設計とリスクマネジメント体制の構築支援を行っている。
